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梅千代の創作物の保管庫です。
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雑談や政治学の講義を交えつつ二時間程紅葉を楽しんだ。日が落ちてきたので、帰ることにする。夜は街灯も無く真っ暗になる上、賊も出やすいそうだ。日本の賊も見てみたいと漏らした所、シュウに目で制されてしまった。冗談じゃないですよ、と文句も付け足されてしまった。

足が疲れてきたので馬に乗る事にした。

日本にも早く鉄道が走れば良いのにね、と軽口を叩いているうちに、先程の村に着いていた。どうしても、此処を通らないと遠回りになってしまうのだとシュウは言う。

「今度は急に駆け出さないで下さいね」

手綱をしっかりと握って、シュウは釘を刺す。大丈夫だよ、と私は口を尖らせた。

村に差し掛かると、また緊張が走る。それが自分の所為だと知れているから尚更居心地が悪い。やっぱり駆け抜けた方が良いんじゃないかとも思う。だが、シュウは手綱を離しそうになく危険な為、それは果たされず、少々早足で村を通った。

あともう少しで村を抜ける、という所でそれは飛来した。

恐らく子供の握りこぶし程もない小さな石が私のこめかみを弾いたのだ。

一瞬何が起きたのかわからなかった。

馬の蹄の近くに、不自然に石が転がるのが目に入る。

理由は私個人に対する恨みでないと思っていたから、私は石が飛んで来た方を怒りに任せて振り返った。私の国のせいで、私が恨まれることに私は憤ったのだ。

そしてその認識が間違っていた事を知る。

石礫を投げつけたのは、前の少女だったのだ。

「何故…」

私は彼女に害を為しただろうか?会話したとき、彼女は笑顔を見せてくれたではないか。私の目を綺麗だと誉めてくれたでは、ないか。

しかし、今、彼女の目は怒りで濁っていた。ふぅふぅと肩で息をしているのも憤怒の為か。

わからない、わからない。

私が呆然としていると、シュウが少女を蹴り倒した。日本語で、彼女を叱りつけている。罵倒の様にも聞こえた。幸か不幸か私には聞き取れなかった。

シュウはカタナに、手をかけた。

「やめないか!!」

私はシュウに怒鳴り付けた。

シュウの動きが止まった。彼はカタナから手を離した。

シュウはそれでも、黙って少女の顔を思いっきり殴った。止める隙はなかった。少女の体は地面に力なく沈んだ。

「シュウ…」
「行きましょう」

シュウは顔から表情を完全に消し去って、言った。彼は再び馬の手綱を握って、早足に歩き出す。

少女が此方を見ている気がした。振り向く事は出来なかった。



村を出てすぐ、シュウは私の前に膝をついた。いつかの少女の様に彼は私に平伏した。

「本当に申し訳御座いませんでした…!」

猛然と彼は謝罪した。そのままの格好で中々顔を上げようとしない。戸惑いながら、私は彼に頭を上げるよう頼んだ。

彼の表情は懺悔室の人のそれに似ていた。

「友人を、地面に這いつくばらせる趣味は無いのだけれどね」

私は馬から降りると、シュウの正面にしゃがみこんだ。

「ハラキリ、とかよしてくれよ。今回のは君がなんて言おうと君の責任じゃない」
「…いいえミスター、あの」

まだ何か言おうとするシュウを、私は言葉で遮った。

「君が仕事として私に謝罪しているのなら尚更だ。私に従いなさい」
「………わかりました」

シュウは納得出来ていないようだったが、頷いた。責任感の強さに逆に辟易とした。

ひりひりと痛むので思わず側頭に手を伸ばすと、少し切れているようで指先に血液が付着した。私はそれも、木にぶつけて出来た事にするとシュウに言い聞かせた。

馬に乗っているのが居心地悪く、私は馬を降りてシュウと並んで歩き出す。日が傾いてきて、私たちの影はひょろりと伸びていた。辺りの様子も黄色味が強くなっている。

蒸し返す様で悪い気もしたが、私は先程の少女の行動の理由をシュウに訊ねた。勿論、シュウは口ごもった。しかし、沈黙することを私はシュウに許可しなかった。

「……あの子供の青痣が増えて服が更に汚れていた事に気付きましたか?」

そういえば、そうだったかもしれない。シュウが言うのだからそうなのだろう。私は取り敢えず頷いた。

「恐らくですが、村の人達に苛められたのだと思います」
「何故だ?」

シュウはとても辛そうに、言った。

「…異国の人と仲良さそうにしていたからではないでしょうか」

目眩がした。

たったそれだけ?ただ話した、それだけで、迫害に値する理由に為り得るというのだろうか。

「閉鎖的な村ですからね」

陰鬱な口調でシュウは答えた。

暫く、お互いに黙り込んだ。

私は、此方の国の人々と良好な関係が築けないだなんて思っていない。例えば隣にいるシュウの様に。この国に限らず、どの国でだってコミュニケーションを図る事は可能なのだ。だって私達はただの人間で、それ以外の何者でもないのだから。

しかし、時に人として不可欠な、大きな括りがそれを阻む。いつの間にか違う種類の生物になり、お互いの世界を食い潰し合う事になっていることも少なくない。

人と人がいるだけの白紙から始まる関係なんて、無理なんて解ってる。周囲の環境から逃れる事なんて不可能だ。都合の良過ぎる夢物語。

「…まぁ、彼女の行動は正しかったと思うよ」

口調が皮肉っぽくなるのは見逃して欲しい。
シュウははっと顔を上げ、私に目を向けた。

「あの子は、これからもあの村で生活して行くんだろう?時代の変化は勿論有るだろうけれど、長々と苛められるよりも私に石を投げつけた方が合理的だ。だって、そうすれば」

泣きたくなった。

「彼女はあの村で、ヒーローだ」

私がいくらこの国を素晴らしいと思っても、一人の人間としてあっても、彼等彼女等にとって自分はただの異邦人で、侵入者で侵略者なのだ。

つまりは憎むべき悪人だ。

悪人に石を投げて何が悪いんだ。

シュウが悔しそうな、辛そうな、苦渋の滲んだ表情を見せた。

どうして君がそんな顔をするんだい?

「あれで良いんだ」

私は繰り返した。

「あれで良いんだよ」

最後は自分に言い聞かせる為だったのかもしれない。向けられた憎悪に納得する為であったのだと思う。

あの時の憎悪の瞳はそれ程、雄弁に語っていた。

『どうして私に話しかけたの。放っておいて、関わらないでくれれば、』

それでも、日本を愛する心がしっかり残っていることに、私は少しだけ安堵したのだった。

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