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梅千代の創作物の保管庫です。
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軽い残酷表現を含みます

翌日、僕、人間もどきの狼もどきは驚愕した。僕は人より少し鋭い嗅覚を使って、何度も何度もそれを確認した。

嗅いだことのある匂いだ。間違いない、でも、どうして。

自分が初めて人を殺した公園のベンチに、ちんまりと昨日殺した少女が座っていたのだ。

「今日和」

女は僕を見つけると無表情のまま挨拶をしてきた。ばくんばくんと上がる心拍数を必死に抑えて僕は会釈をした。

別に、この公園には何をしに来たわけでもない。ただ、ほんの少し心の中で懺悔でもしてみようかと思っただけで、だから、僕は直ぐにその場から退散しようとした。ふらふらとする足を踏ん張って、公園の外に体を向ける。

確かに俺は捕食者である。しかし、かと言って被捕食者に恐怖を感じない訳でもなく――ましてや昨日惨殺した少女が元気そうに動いているのに得体の知れない恐怖を感じない訳が無いのだ。

「あの、」

僕のパニックにはお構い無く、少女は背中を向けて拒絶の雰囲気しか漂っていない僕に話し掛けてきた。

「待って」

じゅりり、と足下の砂利が擦れる。

少女は立ち上がって、振り向けないでいる僕に歩み寄った。

「私を殺した方ですよね」

単刀直入にそう言われると、びくりと大袈裟な位肩が跳ねた。服の裾を軽く掴まれるのを感じて、咄嗟に振り払った。

そのまま振り向くとやはり――その顔も、匂いも、昨日僕が殺した少女に相違なかった。

「………………ああ」

観念して、声を絞り出した。周囲をちらりと見て人がいないのを確認する自分の狡猾さに嫌気がさした。結局人間もどきの狼もどき。それ以上でも以下でもない。

「確かに、殺した。殺しましたけど」
「食べるために?」

少女の稀有な赤色の目に、見詰められてじり、と後退した。赤。アカ。今は飢えていないけれども。

「そう」

答えながら、僕は必死に昨日の自分の行動を――否定したい行動の一部始終を――思い出すよう努めた。

引き裂かれたセーラー服。飛び散る赤色、桜の花弁。艶やかなその中身。鉄錆の味。悲しみにも諦念にも似た罪の意識。そして満たされた空腹。

確かに僕は少女を殺して、その肉を食した。地面に零れた血は水道の水で洗い流し、食べ残した部分は地中にあるはず「だった」。

僕は恐る恐る、少女をもう一度正面から見た。桃色の頬、桜色の唇、血のような紅い虹彩、艶やかな黒髪からはほんのり桜の薫りがした…。

そんな彼女は確かに消失した筈だ。

どうして彼女は此処にいるんだ?

「ねえ、どうして君は此処にいるんだ?」

疑問は率直に伝えた。一番の論争点。「殺され喰われた人間が当たり前のように生きている」。一体何の冗談だろう。

問いかけを聞いて、少女は無表情のまま言った。

「貴方が『人でなし』なように、私もきっと『人でなし』であるだけ」

ね、狼もどきさん。

おどけたように言って、そこで漸く彼女は微笑んだ。緩く上がった口角や緩んだ目元には皆美しさに溜め息を吐くだろう。

しかし僕はその一般的には「天使の微笑み」が、冥界の女王の微笑みにも似て感じられた。

つう、と僕の背を冷や汗がつたった。

満月が過ぎた今日は、あの様な衝動に屈服することもない。だからこそ、昨日の人間としての理性の弱くなった自分が浮き彫りになってしまう。

しかしその異常性ですら、彼女には負けていると思われた。

だって僕は試したことは無いけれど、喉笛やら内臓やらをぶっちぎられたら死んでしまう訳で、そういった基本的な「生物としての条件」は満たしている。しかし彼女は――それすら踏み越えて飛び越えて、生物としてひとつ上の段階に存在していた。その事を残念ながら僕は、不本意とはいえ実証済みだ。

「――君は何なんだ?」

僕は、逃げ出したいと小刻みに震える膝を堪えて(自分では理解できないモノに出会ったと解ると、人は畏怖に似た感情を抱くものだ)、少女に問い掛けた。

少女はこてり、と小首を傾げてほんの少し、解るか解らないかというほどうっすらと眉をひそめてみせた。彼女は感情の波が随分と小さいようだ。若しくは表情が出にくいのだろうか。

そうですねぇ、なんてぼかしながら少女は答えた。

「それが解っていたら私もあまり苦労しないですね」

腑に落ちない答えに僕は憮然として更に尋ねた。

「自分が何者かすら解らないの?」
「…じゃあ敢えて訊きますけど」

少女は無表情に戻り、僕に尋ねた。

「貴方は自分が何者か解るの?人間と言い難い自分の存在を、どう言及してみせてくれるというのですか?」

反駁は出来なかった。

ふぅ、と少女は息を吐いた。ひらひら舞ってくる桜の花弁を少し鬱陶しそうに払ったりしている。

少女は御免なさい、と謝った。

「こんな事、言いたいんじゃ無いんです。――お話したいことがあります。場所、変えませんか?」

少女はくるりとスカートを翻して、おそらくは駅の方に向かって歩き出した。ついてくるのが当然とばかりに真っ直ぐ進むから、僕は思わず、それこそわんこの様に大人しくついていってしまった。

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