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梅千代の創作物の保管庫です。
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『開けたが最後。』




歌がきこえる。



小さくて、掠れそうで、きっと誰の為でもない歌は、何故か私の胸にストンと落ちた。

放課後の静かな校舎の空気の、僅かな震えに気付いたのは私だけなのだろうか?

音が聞こえる方へ引き寄せられる。近づいても、やっぱり声はとても小さい。

蜜を求める蝶のように、ふらふら歩いて行き着いたのは自分のクラスの教室だった。

扉はぴっちりと閉められていて、外の世界を拒絶していた。…たぶん、この扉を開けると教室の中の空間の価値は消えてしまう。そんな気がした。例えば空気の缶詰みたいに。

だから私は黙って扉の脇に腰を下ろした。

誰の歌だろう。インディースだろうか。誰が歌っているんだろう。旋律に聞き覚えは全く無く、歌声から想像できる人は一人もいなかった。

いつの間にか歌声は子守唄にでも変わったのか、私は座り込んだままうとうとと目を閉じてしまっていた。

眠っていたのはそんなに長く無かったと思う。ほんの数分のことだと思うけど、歌声は止んでしまっていて、何故か背中が暖かかった。

布が擦れるのと僅かな重みに、自分の背中に誰かの制服の上着がかかっていることに気付いた。男子生徒のもののようで、随分大きかった。

改めて教室を覗くと中には誰も居なくて、一つだけ開かれた窓のカーテンが風に揺られていた。床にこぼれたオレンジがそれに合わせて揺らめいている。

もう一度上着を確認すると、キチンと名前が書かれていた。

上着をかけてくれたこの人が、あの歌声の人かはわからない。

しかし、私は自分の中に生まれた感情に、「恋」以外に名付けることは困難であるように思えた。




—————
絶賛スランプでございます。携帯から発掘した短文。

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